妖怪 小便小僧

杉並太郎


 ある暑い日の昼下がりのことだった。
 与作は畑仕事でからからに渇いた喉を潤そうと、村の中を流れる小川で手のひらに澄んだきれいな水をすくい上げた。近くの沢から浸み出してくる川の水は冷たく心地よかった。
 与作はまずひとすくいの水で顔の汗を洗い流した。それから喉を潤すため両手でたっぷりと川の水をすくい上げた。
 その時、じょぼぼぼぼという音とともにひとかたまりの泡が流れて来た。与作が驚いて顔を上げると、いつのまに現われたのかすぐそばで妖怪小便小僧が立小便をしていた。
 与作は拳を振り上げて「こらっ!」と怒鳴ったが、小便小僧は「どこに小便しようとおらの勝手だべ」と言って逃げ去った。
 それからというもの、与作が水を飲もうとしたり炊事用に水を汲もうとする度にどこからともなく小便小僧が現われて、「おらの勝手だべ」と言っては小便をした。
 与作はすっかり困ってしまった。大切な飲み水に小便をされたんじゃあかなわない。
 与作が井戸の水を汲もうとしていると、小便小僧が現われて井戸の中に小便をしはじめた。与作は小便小僧を井戸の中に突き落とし、上から用意しておいた漬物石を投げ込んだ。
 やっと安心して水が飲めるようになった与作が、川に水を汲みに行くと今度は小便娘が現われた。

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