魔術師宣言

杉並太郎


 魔法は世界に満ちている。
 世界は魔法に満ちている。

 私たちは風を感じる。
 肌を撫でてやさしく吹く風や、荒々しく吹き木の枝を折る風。
 それは分子の運動で説明できるものではない。私たちは分子の運動を感じることが出来ない。
 私たちが感じるのは風であり、風の精霊である。
 風が吹き抜けていく時、目に見えない何かが通り過ぎているのは間違いない。
 それが、分子の運動なら、生身の人間が走るのも分子の運動に過ぎない。しかし、私たちは人間が動く時には分子の運動とは考えない。
 分子の運動などというものは頭の中にだけあるもので、実在はしない。実在するのは風であり、風の精霊である。
 虹は光の屈折ではない。木霊は音の反射ではない。
 他人に言われた事をいくら暗記しても世界は理解できない。
 それより自分の感覚を信じたい。

 一方科学技術はすでに高度に発達しており、魔法の領域に首まで浸かっている。
 血液型で性格を判断し、アルカリ性食品を食べて健康を維持している。
 あなたは飲尿療法を信じますか。常温核融合を信じますか。環境ホルモンを信じますか。
 あなたは故障したテレビを直せますか。電子レンジを直せますか。車を直せますか。
 魔法で動いているものは魔法使いにしか直せない。

 科学は世界と私たちの間に割り込んできて、私たちが世界と直接触れ合うことを妨げている。科学があるために私たちは目の前の不思議をみることが出来ない。
 不思議な現象が起こっても、学者という他人に一から十まで説明してもらい、不思議な気持ちがすっかりなくなるまで同じ説明を繰り返されるだけ。
 他人に説明を求めるのは止めよう。
 不思議を見つめよう。自分の心で考えよう。
 雲の形を見つめよう。カラスの声を聞こう。
 魔法使いになって、世界の不思議と向かい合おう。


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